社用車で事故を起こしたら誰の責任?会社と運転者の負担割合・修理費・保険と事故直後の対応

社用車事故の責任と負担割合|「社用車の事故 誰の責任?」「修理費は誰が払う?」「事故直後の対応は?」の文字と、白手袋でハンドルを握る手元・路肩の三角表示板

社用車で事故を起こしてしまった、あるいは社員から「事故を起こしてしまった」と連絡が入った。そんなとき真っ先に気になるのが、誰が、どこまで責任を負うのかではないでしょうか。

結論からいうと、社用車の事故では運転した本人だけでなく、会社も被害者に対して賠償責任を負うのが原則です。一方で、会社が支払った賠償金や修理費を、そのまま社員に請求できるわけではありません。判例では、会社が社員に請求できる範囲はかなり絞られています。

この記事では、運転者と会社がそれぞれ負う責任、事故直後の対応の流れ、業務中・私用・通勤中のケース別の考え方、修理費や賠償金の負担、保険の使い方、再発防止策までを2026年10月時点の法令・制度をもとにまとめました。役員車や来賓の送迎車で事故が起きたときのダメージと、その備え方も解説します。

  • 社員が社用車で事故を起こし、会社としての対応を確認したい総務・人事の担当者
  • 社用車で事故を起こしてしまい、自分の負担がどこまでになるか不安な方
  • 役員車や送迎車の運行を管理していて、事故のリスクを減らしたい方

このような方は、ぜひ参考にしてください。

目次

社用車で事故を起こしたら誰が責任を負う?会社と運転者の3つの責任

社用車の事故で問われる責任は、大きく分けて運転者本人の責任と会社の責任の2つです。運転者には民事・刑事・行政の3種類の責任が、会社には民法の使用者責任と自動車損害賠償保障法(自賠法)の運行供用者責任が生じます。まずは、それぞれの中身を整理しておきましょう。

運転者が負う民事・刑事・行政の責任

事故を起こした運転者本人は、社用車であっても次の3つの責任を負います。

民事上の責任被害者のケガ・死亡、車や建物などの損害を賠償する責任(民法709条の不法行為責任)
刑事上の責任人を死傷させた場合の過失運転致死傷罪など(7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)
行政上の責任違反点数の加算、免許の停止・取消しなどの処分

民事上の責任は、後で説明するように会社も一緒に負うため、実際の賠償は会社の保険で支払うのが一般的です。

一方で、刑事上の責任と行政上の責任は、運転者本人に科されるもので、会社が肩代わりすることはできません。人をケガさせた事故では、自動車運転死傷処罰法の過失運転致死傷罪に問われる可能性があり、法定刑は7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。2025年6月の刑法改正で、懲役と禁錮は「拘禁刑」に一本化されています。

さらに、ケガ人を救護せずに立ち去れば道路交通法の救護義務違反(いわゆるひき逃げ)となり、自分の運転で人を死傷させた場合は10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金と、さらに重くなります。

行政上の責任としては、人身事故を起こすと、違反行為の点数に加えて、被害者のケガの程度に応じた付加点数が加算されます。相手の車だけが壊れた物損事故で、交通違反が認められなければ、点数は加算されないのが一般的です。

会社が負う使用者責任とは

使用者責任とは、従業員が仕事中に他人に損害を与えたとき、雇っている会社もその損害を賠償しなければならないという責任です。民法第715条に定められています。

使用者責任が認められるのは、主に次の3つの条件がそろったときです。

  • 会社と運転者のあいだに、雇用などの指揮監督の関係がある
  • 事故が「事業の執行について」、つまり業務中に起きた
  • 運転者に過失があり、運転者自身が不法行為責任を負う

「業務中かどうか」は、外から見て仕事の範囲内に見えるかで判断されます(外形標準説)。たとえば、営業先への移動中に寄り道をしていた場合でも、社用車で走っていれば業務中と判断されやすくなります。

民法では、会社が「運転者の選任と監督に相当の注意をしていた」ことを証明すれば責任を免れるとされています。ただ、実際の裁判でこの免責が認められることはほとんどありません。業務中の事故であれば、会社は責任を負うものと考えておくべきです。

使用者責任は、相手のケガだけでなく、車や建物などの物損にも及ぶ点が特徴です。

会社が負う運行供用者責任とは

運行供用者責任とは、車の運行を支配し、その運行から利益を得ている人が、その車の事故で他人を死傷させたときに負う賠償責任です。自動車損害賠償保障法(自賠法)第3条に定められています。

社用車の場合、車を所有・管理して業務に使っている会社が運行供用者にあたります。運行供用者が責任を免れるには、次の3つをすべて証明しなければなりません。

  • 自分と運転者が、運転に関して注意を怠らなかったこと
  • 被害者または運転者以外の第三者に、故意または過失があったこと
  • 車に構造上の欠陥や機能の障害がなかったこと

この3つをすべて証明するのは現実的に難しく、運行供用者責任は、ほぼ無過失責任に近い重い責任といわれます。ただし、対象は人身損害(ケガ・死亡)だけで、物損は含まれません。

2つの責任の違いを表にまとめると、次のとおりです。

項目使用者責任運行供用者責任
根拠となる法律民法715条自賠法3条
対象となる損害人身・物損の両方人身損害(ケガ・死亡)のみ
主な要件業務の執行中の事故会社が車の運行を支配し、利益を得ている
免責の条件選任・監督に相当の注意をしたこと(実際はほぼ認められない)3つの要件をすべて証明すること(実際はほぼ認められない)
私用運転の場合業務外のため否定されやすい鍵や車の管理状況によっては認められる

会社と運転者は連帯責任になる

業務中の事故では、運転者の不法行為責任と、会社の使用者責任・運行供用者責任が同時に成り立ちます。この関係は法律上「不真正連帯債務」と呼ばれ、被害者は会社と運転者のどちらに対しても、損害の全額を請求できます。

実務では、被害者は支払い能力のある会社や会社の保険会社に請求するのが普通です。社用車の任意保険も会社名義で契約していることが多いため、相手への賠償は会社の保険で支払うことになります。

ただし、これはあくまで被害者に対する関係の話です。会社と運転者のあいだで最終的にどう負担を分けるか(会社が後から社員に請求できるか)は別の問題で、判例では会社が請求できる範囲が大きく制限されています。詳しくは「会社は従業員に修理費や賠償金を請求できる?」で解説します。

社用車事故の直後にやるべき対応の流れ

事故の直後は気が動転しがちですが、やるべきことの順番は決まっています。道路交通法第72条でも、事故を起こした運転者には救護や警察への報告が義務づけられています。

  1. 車を止めてけが人を救護し、二次事故を防ぐ
  2. 警察に届け出る
  3. 現場写真・ドライブレコーダー映像・目撃者を確保する
  4. 会社と保険会社に連絡する
  5. 痛みがなくても病院を受診する
  6. 相手方とその場で示談・約束をしない

社用車を運転する社員には、この流れをカードやスマートフォンのメモにして車内に置いておくと、いざというときに慌てずに済みます。

車を止めてけが人を救護し、二次事故を防ぐ

最初にやるべきことは、すぐに車を止め、けが人がいれば救護することです。軽い接触でも、その場を離れてはいけません。

  • ハザードランプをつけ、可能であれば車を路肩など安全な場所に寄せる
  • けが人がいれば119番通報し、救急車が来るまで可能な範囲で応急手当をする
  • 発炎筒や停止表示器材(三角表示板)を置いて後続車に知らせる(高速道路では停止表示器材の表示が義務)
  • 同乗者やけが人をガードレールの外など安全な場所へ誘導する

相手から「大丈夫です」と言われても、連絡先を交わさずに立ち去ると、後から救護義務違反や報告義務違反を問われることがあります。救護義務違反(ひき逃げ)は免許取消しの対象となる重い違反です。

役員や来賓を乗せているときは、まず同乗者の安全を確認し、必要に応じて別の移動手段を手配します。移動手段の確保については「事故後の役員の移動手段と代わりの運転手をどう確保するか」で詳しく解説します。

警察に届け出て事故証明を残す

けが人の救護と安全の確保が済んだら、どんなに小さな事故でも必ず警察に届け出ます。警察への報告は運転者の義務で、怠ると3か月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金の対象です。

警察には、事故が起きた日時と場所、死傷者の数とケガの程度、壊れた物とその程度、積んでいた物、事故後にとった措置を伝えます。

警察に届け出ておくと、自動車安全運転センターで交通事故証明書を取得できます。交通事故証明書は、保険金の請求や労災の手続きで必要になる大切な書類です。申請できる期間は人身事故が5年、物件事故が3年で、交付手数料は1通1,000円です。

その場で痛みがなく物件事故として届け出たあとで、ケガが分かることもあります。その場合は、医師の診断書を持って警察に行けば人身事故への切り替えを相談できます。

現場写真・ドライブレコーダー映像・目撃者を確保する

警察を待つあいだに、事故の状況を記録しておきます。後で相手と言い分が食い違ったとき、過失割合を決める根拠になるのは、現場の記録と映像だからです。

事故現場で記録しておきたいこと
  • 相手の氏名・住所・連絡先・車のナンバー・加入している保険会社
  • 双方の車の損傷部分と、停止した位置の写真
  • 信号・標識・路面の状態・ブレーキ痕など、現場全体の写真
  • ドライブレコーダーの映像(上書きされる前に保存する)
  • 目撃者の氏名と連絡先

ドライブレコーダーは、一定時間で古い映像が上書きされる機種が多いため、事故の直後にSDカードを抜く、または保存ボタンを押して映像を確保します。目撃者がいれば、後日証言をお願いできるように連絡先を聞いておきましょう。

会社と保険会社にすぐ連絡する

警察への届け出と並行して、会社の上司や安全運転管理者にすぐ報告します。社用車の任意保険は会社名義で契約していることが多く、保険会社への事故の連絡も会社や代理店を通して行うのが一般的です。

自動車保険の約款では、事故が起きたら遅滞なく保険会社に知らせることが求められています。連絡が大きく遅れると、保険金が減額されたり、相手との交渉が不利になったりすることがあります。多くの保険会社は24時間365日、事故の受付をしています。

会社への報告では、事故の日時・場所、けが人の有無、相手の情報、警察への届け出の状況、車が動かせるかどうかを伝えます。社内で報告の様式を決めておくと、運転者が慌てていても必要な情報が漏れません。

痛みがなくても病院を受診する

事故の直後は気が張っていて、痛みを感じないことがよくあります。むちうちなどは、数時間から数日たってから症状が出ることも珍しくありません。

受診が遅れると、ケガと事故との関係を証明しにくくなり、補償を受けにくくなります。少なくとも事故の当日か翌日には病院で診察を受けておきましょう。

なお、業務中や通勤中の事故によるケガは労災保険の対象です。仕事中のケガには健康保険を使えないため、受診するときは「仕事中の交通事故」であることを病院に伝えます。労災の手続きは「運転者が仕事中にけがをしたときは労災保険の対象になる」で解説します。

相手方とその場で示談・約束をしない

事故の現場で「全部こちらで払います」「修理代は自分が持ちます」といった約束をしてはいけません。その場での口約束は、後から過失割合を決めるときに不利になることがあります。

会社の保険に示談代行サービスが付いていれば、相手との交渉は保険会社が行います。運転者が個人として示談したり、現金を受け渡したりすると、保険で支払えなくなるおそれもあります。

相手に誠意を示すことは大切ですが、伝えるのは謝罪の気持ちと連絡先までにとどめ、賠償の話は「会社と保険会社から連絡します」と伝えましょう。

【ケース別】業務中・私用・通勤中の社用車事故の責任

社用車の事故でも、いつ・何のために運転していたかによって、会社と運転者の責任の重さは変わります。まずはケースごとの考え方を一覧で確認しておきましょう。

ケース会社の使用者責任会社の運行供用者責任運転者のケガと労災
業務中(営業・配送・送迎など)原則あり原則あり業務災害の対象
業務時間外の私用運転原則なし(外から業務に見える場合は例外)車や鍵の管理状況によってはあり対象外
社用車での通勤・帰宅会社が通勤利用を認めていればありうる原則あり通勤災害の対象(合理的な経路・方法の場合)
マイカーの業務利用会社が業務利用を認めていればありうる業務利用の実態によってはあり業務中なら業務災害の対象

業務中に社用車で事故を起こした場合

もっとも多いのがこのケースです。営業先への移動、荷物の配送、役員や来客の送迎など、仕事のために社用車を運転していた事故では、会社は使用者責任と運行供用者責任の両方を負います。

被害者への賠償は会社の任意保険で支払い、社用車の修理も会社の車両保険や会社の費用で行うのが一般的です。運転者が個人で賠償金を負担することは、通常はありません。

ただし、先に説明したとおり、刑事上の責任と免許の点数は運転者本人に科されます。また、運転者自身のケガは労災保険の業務災害として補償されます。

業務時間外に社用車を私的に使って事故を起こした場合

休日の買い物や旅行など、業務と関係なく社用車を使っていた場合は、業務中ではないため使用者責任は原則として認められません。ただし、社用車の私用を会社が許可していたか、無断で使っていたかで扱いが変わります。

  • 会社が私用や持ち帰りを認めていた場合は、会社が車の運行を支配していると評価され、運行供用者責任を負う可能性が高い
  • 無断で使った場合でも、鍵の管理がずさんで誰でも乗り出せる状態だったなど、会社の管理に落ち度があれば責任を問われることがある
  • 社名入りの車などで、外から見て業務中に見える場合は、使用者責任が認められることもある

保険については、法人契約の自動車保険は運転者の範囲を限定していないことが多く、私用中の事故でも相手への賠償に保険が使えるケースが一般的です。ただし、使用目的の告知や無断使用の扱いは契約によって異なるため、約款や代理店で確認が必要です。

社内では、私用を禁止しているのに無断で使っていた場合、就業規則違反として懲戒の対象となり、会社が後から社員に費用の負担を求められる範囲も、業務中の事故より広くなりやすいといえます。

社用車で通勤・帰宅中に事故を起こした場合

営業車で直行直帰をしている場合など、会社が社用車での通勤を認めているケースも少なくありません。通勤そのものは業務の執行ではありませんが、会社が社用車での通勤を認めていれば、業務と密接な運転として使用者責任が認められる可能性があります。車の所有者として、運行供用者責任は原則として会社が負います。

運転者のケガは、合理的な経路・方法での通勤中であれば、労災保険の通勤災害として補償されます。ただし、通勤途中で私的な寄り道をした場合は、その寄り道の間とその後の移動は原則として通勤災害の対象外です(日用品の購入など、日常生活上必要な最小限度の行為は例外)。

社用車での通勤を認める場合は、通勤に使ってよい範囲、寄り道の扱い、駐車場所を車両管理規程で決めておくと、事故が起きたときの判断がぶれません。

マイカーを業務に使っていて事故を起こした場合

社用車が足りないときに、社員のマイカーを業務に使わせている会社もあります。この場合でも、会社が業務での使用を命じたり認めたりしていれば、会社も使用者責任や運行供用者責任を問われる可能性があります。ガソリン代や車両手当を支給している場合は、会社が業務利用を認めていると判断されやすくなります。

マイカーの事故では、まず社員個人の自動車保険を使うことになります。保険を使えば社員本人の等級が下がり、翌年以降の保険料が上がるため、社員にとっては大きな負担です。また、使用目的を「日常・レジャー」で契約していると、業務での使用が補償の対象外になるおそれもあります。

マイカーの業務利用を認めるなら、対人・対物賠償が無制限の保険に入っていること、使用目的を業務使用にしていることを条件にし、事故のときの費用負担を規程で決めておきましょう。

社用車事故の損害賠償・修理費は誰が払う?

被害者への賠償、社用車の修理費、運転者のケガの治療費。社用車の事故では、お金の問題が複数同時に発生します。それぞれを誰が、どの財源で負担するのかを見ていきましょう。

相手への賠償はまず会社の保険で対応する

被害者への賠償は、まず会社が加入している保険で支払います。相手のケガ・死亡は、最初に自賠責保険から支払われ、限度額を超えた分を任意保険の対人賠償保険で支払う仕組みです。

国土交通省が案内している自賠責保険の支払限度額は、被害者1人につき次のとおりです。

傷害120万円
後遺障害75万円〜4,000万円(等級により異なる)
死亡3,000万円
対象外相手の車・建物などの物損、自分の車の修理費、運転者自身のケガ

重い後遺障害や死亡事故では、賠償額が1億円を超えることもあります。自賠責保険だけでは到底足りないため、任意保険の対人・対物賠償は無制限で契約しておくのが基本です。

任意保険で免責金額(自己負担額)を設定している場合や、保険の限度額を超えた場合、その分は会社が負担します。

社用車の修理費は会社負担が一般的

社用車そのものの修理費は、車両保険に入っていれば車両保険で、入っていなければ会社の費用で修理するのが一般的です。

会社が社用車を使って利益を上げている以上、そこから生じるリスクも会社が負うべきだという考え方(報償責任)があります。そのため、業務中の通常の過失による事故で、修理費を社員に全額負担させることは、まず認められません。

車両保険を使うかどうかは、修理費の額と、保険を使ったときに上がる翌年以降の保険料を比べて判断します。保険料の変わり方は「事故で保険を使うと翌年以降の保険料はどう変わる?」で解説します。

会社は従業員に修理費や賠償金を請求できる?

民法715条3項は、使用者責任で賠償した会社が、運転者に対して支払った分を請求(求償)できると定めています。しかし、判例ではこの請求できる範囲が大きく制限されています。

代表的なのが、最高裁判所の昭和51年7月8日の判決(茨城石炭商事事件)です。タンクローリーの運転手が起こした事故について、会社が社員に請求できるのは損害額の4分の1が限度と判断されました。会社が任意保険に入っていなかったことも、社員の負担を減らす方向で考慮されています。4分の1という割合はこの事案に即した判断で一律の上限ではありませんが、故意や重大な過失がない限り、全額の請求が認められることはまずないと考えてよいでしょう。

請求できる範囲は、主に次のような事情を総合して決まります。

  • 会社の事業の性格・規模と、社員の業務の内容
  • 社員の労働条件(給与水準、長時間労働の有無など)と勤務態度
  • 事故の態様(不注意の程度、飲酒やスピード違反など重い過失の有無)
  • 会社が保険加入や安全教育などで事故の予防・損失の分散に配慮していたか

さらに、最高裁判所の令和2年2月28日の判決では、社員が先に被害者に賠償した場合、社員から会社に対して、会社が負担すべき分を請求(逆求償)できることも認められました。業務中の事故の負担は、最終的には会社が中心となって負うべきものという考え方が、判例ではっきり示されています。

会社が社員に負担を求めるときの注意点
  • 「事故1回につき〇万円を負担」と金額をあらかじめ決めておくことは、労働基準法16条(賠償予定の禁止)で禁止されている
  • 給与からの一方的な天引きは、賃金全額払いの原則(労働基準法24条)に反するため、本人の自由な意思による同意が必要
  • 飲酒運転・著しいスピード違反・居眠り運転など重い過失があれば、負担割合が大きくなることがある
  • 保険に入っていない、無理な運行を指示していたなど会社側の事情があれば、社員の負担はさらに小さくなる

運転者が仕事中にけがをしたときは労災保険の対象になる

業務中の事故で運転者がケガをした場合は労災保険の業務災害として、通勤中の事故であれば通勤災害として補償を受けられます。治療費の自己負担はなく、仕事を休んだ期間は休業4日目から、給付基礎日額の60%の休業(補償)給付と20%の休業特別支給金が支給されます。業務災害の場合、休業の最初の3日間は会社が平均賃金の60%以上を補償しなければなりません。

相手がいる事故の場合、労災保険の請求とあわせて「第三者行為災害届」を労働基準監督署に提出します。神奈川労働局の案内にもあるとおり、相手の自賠責保険などから同じ損害の補償を受けた場合は、労災保険との間で支給が調整され、二重に受け取ることはできません。

単独事故(自損事故)でも、業務中であれば労災保険の対象です。会社が労災の手続きを嫌がって健康保険で受診させる、いわゆる「労災隠し」は違法なので、必ず労災として手続きしましょう。

社用車事故で使う保険と、事故後に保険料が上がる仕組み

社用車の事故では、自賠責保険と任意保険(自動車保険)を組み合わせて損害を補償します。契約している台数によって、保険料の決まり方も変わります。

自賠責保険と任意保険(対人・対物・車両保険)の役割

主な保険と補償の範囲は、次のとおりです。

保険補償する内容ポイント
自賠責保険相手のケガ・死亡(限度額あり)加入は法律上の義務。物損や自分のケガは対象外
対人賠償保険自賠責保険を超える相手のケガ・死亡無制限で契約するのが基本
対物賠償保険相手の車・建物・積み荷などの損害店舗や鉄道設備との事故で高額になることがあるため無制限が安心
人身傷害保険運転者・同乗者のケガ・死亡過失割合にかかわらず、実際の損害額を補償
車両保険社用車そのものの修理費免責金額や保険料とのバランスで判断

役員や来賓を乗せて走る車では、同乗者のケガを補償する人身傷害保険の補償額を十分にしておくことも大切です。社外の運転手に運転を任せる場合は、契約の「運転者の範囲」と「年齢条件」がその運転手をカバーしているかも確認しておきましょう。

フリート契約とノンフリート契約の違い

会社の自動車保険は、所有・使用している車の台数によって契約方式が分かれます。契約する車が10台以上ならフリート契約、9台以下ならノンフリート契約です。

項目フリート契約ノンフリート契約
対象契約する車が10台以上契約する車が9台以下
保険料の決まり方契約全体の損害率(保険料に対する支払保険金の割合)などで割増引率が決まる1台ごとの等級(1〜20等級)で決まる
事故の影響契約全体の翌年の割増引率に反映される事故を起こした車の等級が下がる
運転者の範囲限定しないのが一般的契約で限定できる

フリート契約は、全車をまとめて1つの契約で管理でき、事故が少なければ契約全体で大きな割引を受けられます。反対に事故が多いと、全車の保険料が上がります。

9台以下でも、2台以上を1つの契約にまとめると割引が受けられる「ミニフリート」と呼ばれる仕組みを用意している保険会社もあります。台数が増えてきたら、代理店に契約方式の見直しを相談するとよいでしょう。

事故で保険を使うと翌年以降の保険料はどう変わる?

ノンフリート契約の場合、対人・対物賠償保険や車両保険(一部を除く)を使うと「3等級ダウン事故」となり、翌年の等級が3つ下がり、さらに「事故有係数」という割高な保険料率が3年間適用されます。

  • 3等級ダウン事故:対人・対物賠償保険を使った事故、自損事故で車両保険を使った場合など(事故有係数の適用は3年)
  • 1等級ダウン事故:盗難・いたずら・飛び石などで車両保険だけを使った場合(事故有係数の適用は1年)
  • ノーカウント事故:人身傷害保険や搭乗者傷害保険だけを使った場合(等級に影響しない)

修理費が小さい事故では、保険を使うと3年間の保険料の上昇分のほうが高くつくこともあります。保険を使うかどうかは、保険を使った場合と使わない場合の3年間の保険料の差を代理店に試算してもらってから決めましょう。

フリート契約の場合は、事故の件数や支払われた保険金の額が、契約全体の翌年の割増引率に反映されます。1台の事故で急に跳ね上がることは少ないものの、事故が重なると全車の保険料が上がるため、会社全体での事故防止が保険料の節約にもつながります。

役員車・送迎車の事故が会社に与えるダメージ

社用車の事故のなかでも、役員車や来賓の送迎車で起きる事故は、賠償金や修理費だけでは測れない大きなダメージを会社に与えます。ここでは、ほかの社用車とは違うリスクと備え方を見ていきます。

役員や来賓が乗っているときの事故は信用問題になる

役員や取引先の来賓を乗せているときの事故は、乗っている人のケガだけでは済みません。

役員車・送迎車の事故で起こりやすい二次被害
  • 同乗していた取引先の来賓がケガをして、取引関係に影響が出る
  • 役員が重要な会議・商談・式典に間に合わず、経営判断や交渉が止まる
  • 役員本人のケガで、しばらく出社や出張ができなくなる
  • 社名入りの車や高級車の事故が目撃され、SNSなどで拡散される
  • 「社員に無理な運転をさせていたのでは」と安全管理の体制を問われる

とくに来賓の送迎中の事故は、お客様を危険な目にあわせたという事実そのものが、会社の信用を大きく損ないます。保険で賠償できたとしても、失った信頼を取り戻すには時間がかかります。

だからこそ、役員車や送迎車では、運転手の技量・体調・運行計画の管理を、ほかの社用車よりも一段厳しくしておく必要があります。

事故後の役員の移動手段と代わりの運転手をどう確保するか

事故が起きると、車と運転手の両方が同時に使えなくなることがよくあります。車は修理に出され、運転手はケガや精神的なショック、免許停止などで、しばらく運転できなくなるからです。

役員のスケジュールを止めないためには、次のような代わりの手段を、事前に決めておくことが大切です。

手段向いている場面注意点
ハイヤー車ごと手配したい、数日だけ使いたい料金が高めで、当日の予約は難しいことがある
タクシー短い距離、当日の急な移動車種や運転手を選べず、車内での会話にも気を使う
外部の運転手手配サービス代車やリース車に運転手だけを付けたい保険の運転者の範囲・年齢条件の確認が必要
社内の別の社員が運転ごく短期間のつなぎ運転に慣れていない社員だと、事故のリスクが高い

車については、車両保険の代車費用特約やリース会社の代車サービスで確保できる場合があります。契約内容を事前に確認しておきましょう。

運転手については、普段から代わりの運転手を頼める先を決めておくと、事故だけでなく、運転手の急な病気や休暇のときにも役員の移動を止めずに済みます。

運転経験の浅い社員に役員車を任せるリスク

総務の社員や若手社員が、本来の業務と兼務で役員車を運転している会社もあります。しかし、役員車の運転は、通常の社用車の運転とは求められるものが違います。

  • 大きな車(大型セダンやミニバン)の車幅感覚や取り回しに慣れていない
  • 都心の混雑した道路や、ホテル・会場の車寄せでの運転に慣れていない
  • 「会議に遅れられない」という時間のプレッシャーで、運転が焦りがちになる
  • 本来の業務との兼務で、早朝から夜遅くまで拘束され疲れがたまる

こうした状況が重なると、ふだんなら起こさないような事故につながりかねません。運転経験の浅い社員に任せる場合は、同乗指導や研修を行い、無理のない運行計画を組むことが欠かせません。

役員の移動が多い会社では、運転を専門とするお抱え運転手(役員運転手)に任せる会社も増えています。役割や雇い方はお抱え運転手の仕事内容と雇うメリット・デメリットで詳しく解説しています。

社用車事故の再発を防ぐために会社がやるべきこと

事故が起きたら、原因を分析して再発を防ぐ仕組みを整えることが大切です。法律で義務づけられている対策と、会社が自主的に取り組みたい対策に分けて紹介します。

安全運転管理者の選任とアルコールチェックの義務

一定台数以上の社用車を使う事業所は、道路交通法により安全運転管理者を選任しなければなりません。選任が必要になるのは、事業所ごとに次の台数の車を使っている場合です。

選任が必要な台数乗車定員11人以上の車が1台以上、またはその他の車が5台以上(自動二輪車は1台を0.5台として計算)
副安全運転管理者20台以上の場合は、20台ごとに1人を追加で選任
届出選任した日から15日以内に、事業所を管轄する警察署へ届け出る
選任義務違反の罰則50万円以下の罰金

安全運転管理者の主な業務は、運転者の適性の把握、運行計画の作成、交替運転者の配置、点呼と日常点検、運転前後の酒気帯び確認などです。

警察庁の案内のとおり、2023年12月1日からは、白ナンバーの社用車でもアルコール検知器を使った酒気帯び確認が義務になっています。運転前後に目視とアルコール検知器で確認し、その記録を1年間保存すること、アルコール検知器を常に正常に使える状態にしておくことが求められます。

運転前の体調確認と無理な運行計画の見直し

事故の原因をたどると、運転者の寝不足や疲労、無理なスケジュールに行き着くことが少なくありません。

  • 運転前の点呼で、睡眠時間・体調・服用している薬を確認する
  • 長距離の運転では、2時間に1回程度は休憩をとれる行程にする
  • 早朝から深夜まで1人の運転者に任せきりにせず、交替の運転者を用意する
  • 遅刻しそうなときに急がせるのではなく、余裕をもった出発時刻を設定する

とくに役員車の運転では、役員の予定に合わせて拘束時間が長くなりがちです。運転者が休憩をとれない運行計画は、それ自体が事故のリスクと考え、運行計画を見直しましょう。

安全運転研修と事故事例の社内共有

社用車を運転する社員には、入社時や異動時に安全運転研修を行い、その後も定期的に受講させます。自動車教習所や保険会社などが、法人向けの安全運転講習を用意しています。

社内で起きた事故やヒヤリハット(事故には至らなかったものの危なかった場面)を共有することも効果的です。ドライブレコーダーの映像を使えば、「どこで」「なぜ」危険が生じたのかを具体的に学べます。

事故を起こした社員には、責めるだけで終わらせず、原因を一緒に振り返って再教育を行います。個人の不注意で片づけず、仕組みの問題として改善する姿勢が、再発防止につながります。

ドライブレコーダー・車両管理システムの導入

ドライブレコーダーは、事故が起きたときに過失割合を判断する証拠になるだけでなく、日ごろの運転を見直すきっかけにもなります。

最近は、通信機能を持つドライブレコーダーや車両管理システムも普及しています。急ブレーキ・急ハンドル・速度超過などの危険な運転を自動で検知して管理者に知らせたり、走行ルートや運転時間を記録して運転日報を自動で作ったりできます。

「見られている」という意識が運転者の安全運転につながるうえ、事故の際には映像と位置情報がすぐに確認できます。月額制のサービスが多いため、車の台数や管理の目的に合わせて選びましょう。

車両管理規程と就業規則で責任範囲を決めておく

事故が起きてから「誰が払うのか」「処分はどうするのか」を考えると、社員との間でトラブルになりがちです。車両管理規程と就業規則で、あらかじめルールを決めておきましょう。

車両管理規程で決めておきたいこと
  • 社用車を運転できる人の範囲と、運転免許証の定期的な確認
  • 私用・持ち帰り・通勤での使用を認めるかどうか
  • 事故が起きたときの報告の手順と連絡先
  • 事故の費用負担の考え方(金額をあらかじめ決めるのは不可)
  • 飲酒運転や重大な違反をしたときの懲戒の基準
  • 加入している保険の内容と、保険を使うときの手続き

規程は作っただけでは意味がありません。社用車を運転する社員に説明し、内容を理解したことを確認しておくことが大切です。

社用車を運転したくない社員への向き合い方

事故の責任の話を聞くと、「社用車を運転したくない」と感じる社員が出てくるのも自然なことです。会社としてどう向き合えばよいかを考えます。

社用車の運転を不安に感じる理由

社員が社用車の運転を不安に感じる理由は、主に次のようなものです。

  • 運転免許はあるが、ふだんほとんど運転していない(ペーパードライバー)
  • 事故を起こしたら、修理代や賠償金を自分が払わされるのではないかと心配
  • 社用車が大きい、または乗り慣れない車種で運転しにくい
  • 都心の混雑した道路や、狭い駐車場での運転に自信がない
  • 役員や取引先を乗せて運転するのが精神的な負担になる

このうち「弁償させられるのでは」という不安は、この記事で説明したように、業務中の通常の事故では会社が中心となって負担することを伝えるだけでも和らぎます。

運転を業務命令で強制できるかの考え方

営業職で採用し、入社時から社用車の運転が業務に含まれることを説明している場合など、雇用契約や就業規則で運転が業務内容に含まれていれば、会社は合理的な範囲で運転を命じることができます。

一方で、運転を前提とせずに採用した社員や、運転に慣れていないことが明らかな社員に無理に運転させるのは問題です。会社には、社員が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務・労働契約法5条)があり、事故が起きれば会社の責任も重くなります。

運転に不安がある社員には、同乗しての練習や研修の機会を用意する、公共交通機関やタクシーでの移動を認めるなど、運転以外の手段も含めて柔軟に対応しましょう。

運転業務を社外のプロに任せるという選択肢

役員の送迎や来賓の送迎のように、運転そのものが目的の業務は、運転を専門とするプロに任せるという考え方もあります。主な方法は次のとおりです。

  • 自社で専任の運転手を雇用する
  • 外部の専門会社に、運転業務を委託する
  • 必要なときだけハイヤーを利用する

運転を専門の運転手に任せれば、運転に慣れていない社員が事故を起こすリスクを減らせるうえ、社員は本来の業務に集中できます。運転手の採用・教育や、休んだときの代わりの手配まで任せられる外部の専門会社を使えば、管理の手間も小さくなります。

専任の運転手を頼んだときの月額費用の目安は、専属運転手を個人契約するには月いくら?で詳しく紹介しています。外部の運転手が自社の車を運転する場合は、保険の運転者の範囲や年齢条件がカバーしているかを事前に確認しておきましょう。

社用車の事故に関するよくある質問

社用車の事故について、よく寄せられる質問にお答えします。

社用車の事故で会社に報告しないとどうなる?

会社に報告しないと、保険会社への事故の連絡が遅れて保険金が支払われなかったり、減額されたりするおそれがあります。社用車の傷やドライブレコーダーの映像、相手からの請求などで、後から発覚することがほとんどです。

就業規則で事故の報告を義務づけている会社では、報告しなかったこと自体が懲戒の対象になります。また、警察に届け出なかった場合は、道路交通法の報告義務違反として3か月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金の対象です。小さな事故でも、必ず警察と会社に報告しましょう。

社用車の事故で減給や懲戒処分を受けることはある?

就業規則に懲戒の定めがあれば、事故を理由に懲戒処分を受けることはあります。ただし、処分の重さは、事故の原因や過失の程度に見合ったものでなければなりません。通常の不注意による事故で重い処分をすれば、懲戒権の濫用として無効になる可能性があります。

減給の処分には労働基準法91条の上限があり、1回の額は平均賃金の1日分の半額まで、総額は1回の賃金支払期の賃金総額の10分の1までです。一方、飲酒運転やひき逃げなど悪質な場合は、懲戒解雇を含む重い処分も認められやすくなります。

社用車の事故で運転者の免許の点数は引かれる?

社用車であっても、免許の点数は運転者個人に付きます。人身事故の場合は、安全運転義務違反などの違反点数に加えて、被害者のケガの程度に応じた付加点数が加算されます。

警視庁の案内による付加点数は、次のとおりです。

事故の区分不注意が専ら運転者によるときそれ以外のとき
死亡事故20点13点
治療期間3か月以上または後遺障害あり13点9点
治療期間30日以上3か月未満9点6点
治療期間15日以上30日未満6点4点
治療期間15日未満または建造物の損壊3点2点

たとえば、安全運転義務違反(2点)で相手に治療期間15日未満のケガをさせ、不注意が専ら運転者によるものだった場合は、合計5点です。前歴がなければ、累積6点で30日間の免許停止になります。免許停止中は、当然ながら社用車を運転できません。

社用車の自損事故(単独事故)でも会社に弁償が必要?

電柱やガードレールにぶつけた、車庫入れでこすったといった自損事故でも、業務中の通常の不注意によるものであれば、修理費は会社が負担するのが原則です。車両保険に入っていれば、車両保険で修理できます。

ただし、居眠り運転・飲酒運転・著しいスピード違反など重い過失がある場合は、一部の負担を求められることがあります。その場合でも、判例では会社が請求できる範囲は制限されており、全額を負担させることは通常認められません。ガードレールや電柱などを壊した場合は、その修理費を対物賠償保険で支払います。

事故を起こした社員に社用車の運転を続けさせてよい?

一度事故を起こしたからといって、一律に運転を禁止する必要はありません。大切なのは、事故の原因を分析し、再発を防ぐ手立てをとったうえで運転を再開させることです。

  • 事故の原因(体調・運行計画・運転技術など)を本人と一緒に振り返る
  • 安全運転研修や、一定期間の同乗指導を行う
  • 免許停止中は運転させない(運転させれば会社も責任を問われる)
  • 短期間に事故を繰り返す場合は、運転業務から外すことも検討する

事故の直後は精神的なショックが残っていることもあるため、本人の様子も確認しながら判断しましょう。

社用車の事故は会社の保険等級に影響する?

会社名義の保険で事故の補償を受ければ、会社の保険に影響します。ノンフリート契約であれば事故を起こした車の等級が下がり、フリート契約であれば契約全体の翌年の割増引率に反映されます。

一方で、社用車の事故で、運転者個人が加入しているマイカーの自動車保険の等級が下がることはありません。ただし、マイカーを業務に使っていて事故を起こした場合は、個人の保険を使うことになるため、個人の等級が下がります。

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